2020 年 4 月 6 日のティム・ケラーによるライブメッセージ(日本語訳)
A Message from Tim Keller | Resilience & Burnout
今日は、「あなた」について話したいと思います。新型コロナウイルスが蔓延している今、多くの疑問があな たの頭の中を巡っていることでしょう。不安の中にある信徒たち、大きな恐れの中にある人たちにどの ような牧会的ケアをして行けば良いのか、そのようなことを気にしているでしょう。けれども今日はそ のような話はしません。今日、私は「あなた自身」のことを話します。
例えるならばこういうことです。飛行機で旅行するときの場面を想像してください。離陸前に滑走路へ 移動していきます。フライト・アテンダントが安全についての案内をして、このように言います。「もし 緊急事態が起きた場合、酸素マスクが降りてきます。」ここで一つ重要なことを付け加えます。「酸素マ スクは、他の人のために使わず、まず自分自身のために使ってください。」「たとえ小さな子供が一緒で その子が怖がっていたとしても、まずあなたが酸素マスクをつけて、その後で子どもの酸素マスクをつ けてください。」なぜそのようなことを言うのでしょうか?なぜなら、もしあなたが酸素不足になってし まったら、他の人を助けることは決してできないからです。これこそが今日私がお話したいことです。
9.11 のテロが起きた二日後、ニューヨークで牧会をしている私の元に、一人の牧師からの電話がありま した。彼はオクラホマ市にある長老教会の牧師でした。ある人はご存知かもしれませんが、オクラホマ シティーでは 1995 年に爆弾テロ事件が起こりました。168 人もの人々が亡くなり、数百人もの負傷者 を出しました。オクラホマシティは大きな都市ではないこともあり、この事件は市内に非常に大きな衝 撃を与えました。
その牧師は私に忠告しました。「これから本当に気をつけてください。今は 200%のエネルギーで一生懸 命に奉仕をされているでしょう。全力でやるべき事をこなし、全力で人々と話し、全力で人々を助ける でしょう。けれども、2 年後または 3 年後、突然あなたの教会のスタッフたちや牧師たち全員がうつ病 にかかったり、バーンアウトになったり、精神的にまた霊的に食い尽くされたような状況になってしま います。だから十分気をつけてください。」
私たちは教会のリーダーとして 9.11 が起こった時に十分気をつけていたつもりでした。しかし、 5 年 後にオクラホマシティーの牧師の言った忠告がまさに現実のものとなってしまったのです。少し疲れた 感覚が続き、ちょっと休めばいいかなと思う程度でしたが、実際はそのような軽い状況ではありませんでした。
ですから今日、私が話すことは「あなた自身」のことです。教会のリーダーとして、牧師として、これ から起こりうるバーンアウトについて、聖書から 4 つの箇所を読んで、そこから教えられることをお話 ししたいと思います。改めて言いますが、あなた自身に酸素マスクがついていないと、他の人を霊的に、 そして精神的に助けられることはできません。
バーンアウトを避けるために必要な 4 つの原則とは、
並外れた祈り (Extraordinary Prayer)、
ストイックさを伴わない逆境力 (Resilience without stoicism)、
抜本的な再フォーカス (Radical Refocusing)、
福音による決意 (Gospel Resolve) です。
原則 1. 並外れた祈り
(Extraordinary Prayer)
「さて、イエスは朝早く、まだ暗いうちに起きて寂しいところに出かけて行き、そこで祈っておられた。 すると、シモンとその仲間たちがイエスの後を追って来て、彼を見つけ、『皆があなたを捜しています』 と言った。イエスは彼らに言われた。『さあ、近くにある別の町や村へ行こう。わたしはそこでも福音を 伝えよう。そのために、わたしは出て来たのだから。』」マルコ 1:35-38
聖書はイエスが朝早く起きたと書いてあります。シモンと他の弟子たちが起きた時にはイエスは見当た らず、イエスがどこにいるかを探しました。イエスは朝早く起きて非常に長い時間を祈りに費やしてい たのです。多くの注解書は、イエスの祈りは単に形式的な祈りではなく、特に長い間祈っていたと書い ています。イエスは有名になればなるほど、弟子たちにイエスのしていたことを引き継ぎ、ご自身は人々 から離れて一人での祈りの時間に費やしていたのです。
外面的なミニストリーの強さが、祈りによる内面的な父との従属関係によって強められるのです。私た ちは祈りを恵みによる霊的な訓練の一部として捉えますが、毎日、毎週、毎月起こる様々な出来事の中 で、その渦中から離れて酸素マスクを取り入れることは非常に重要なのです。イエスがその三年間のミ ニストリーの中で行ったことの一部に人から離れて時間を持つことがありました。休息があり、黙想が あり、祈る時間があるのです。何をするにもそのような時間が必要であり、とりわけ非常に大きなスト レスがかかるときには非常に集中した祈りの時間が必要となってくるのです。これは最も大切な原則で す。
原則 2. ストイックさの伴わない逆境力
(Resilience without stoicism)
「私たちは四方八方から苦しめられますが、窮することはありません。途方に暮れますが、行き詰まる ことはありません。迫害されますが、見捨てられることはありません。倒されますが、滅びません。 私 たちは、いつもイエスの死を身に帯びています。それはまた、イエスのいのちが私たちの身に現れるた めです。ですから、私たちは落胆しません。たとえ私たちの外なる人は衰えても、内なる人は日々新た にされています。私たちの一時の軽い苦難は、それとは比べものにならないほど重い永遠の栄光を、私 たちにもたらすのです。私たちは見えるものにではなく、見えないものに目を留めます。見えるものは 一時的であり、見えないものは永遠に続くからです。」 2 コリント 4:8-10, 16-18
私の心を深く、そして長い間魅了してきたこの聖書箇所の要約は、「ストイックさの伴わない逆境力」に まとめられます。パウロは、「物事に動じないで頑張りなさい」、「周りの状況は気にしないでおきなさい」、 「感情に左右されないように自分自身を強く保ちなさい」、「感情を表に出さないように自分を制しなさ い」とは言っていません。パウロがそこで書いているのは、「私は四方八方から苦しめられています」、「途 方にくれ、打ちのめされています。」と書いています。けれどもその一方で「私たちは滅びる事は無い」 と励ましているのです。
ヘブル書 12 章は箴言 3 章を引用していますが、「困難が起こったときには、あなたがたは元気を失わな いように、また疲れ果ててしまわないように」と書いてあります。同時に、私たちは嘆き悲しむことを 許されています。泣くこと、打ちのめされること、まさに床の上に投げ出されるような感情を与えられ ているのです。けれども、私たちが投げ出されたままではいる事はありません。そこからもう一度立ち 上がるのです。なぜなら原則 1 の祈りによって、私たちの視点が自分自身から神様へと向けられ、「私た ちは見えるものにではなく、見えないものに目を留め(2 コリント 4:18)」るようになるからです。視 点を自分自身から神様に向けること、つまり祈りがあなたを再び床の上から立ち上がらせる力を与える のです。
実際、「嘆く」と言う行為は私たちにとって必要なものです。世の中を見た時に、我慢をしてやり過ごす 禁欲主義、または単に鬱憤を晴らすことなどを通して困難を乗り越える傾向がありますが、そのような ことを意味するのではありません。私たちが原則 1 の祈りに目を向けた時に、私たちは今ある状況は嘆 くべき時である、嘆いていいのだという気づきは重要なことです。その過程こそが逆境力につながって いくのです。
原則 3. 抜本的な再フォーカス
(Radical Refocusing)
「イッサカル族からは、時を悟り、イスラエルが何をなすべきかを知っていた、かしら二百人。その同胞はみな彼らの命令に従った。」 1 歴代誌 12:32
ここで話しているのは、ダビデがサウルから逃亡中、イッサカル族の人々が全てを捨ててダビデに従う べく荒野に出ている状況です。彼らはダビデが主に油注がれた者だと言うことを知っていました。です から自分の家族を離れ、危険を顧みず、サウルの治める国を離れていき、ダビデの後をついて行ったわ けです。彼らは「時を悟り、何をすべきか知っていた」のでした。それはまるで良い農夫が種を植える 時季を理解していたり、また刈り入れのタイミングを理解しているようなものです。または何もするべ き時ではないと理解しているようなものです。彼らは「時」をよく理解していたわけです。
このような事態では、私たちは今ある義務や仕事から離れること、少なくともブレインストーミングを するために、今まで設定していた全ての目標や伝統、または優先順位などから暫く解放されることが重 要です。そして、聖書が明らかに定めている事以外の事柄、あなたのミニストリーについて、考えうる 全ての質問を投げかけてください。言い換えるならば、頭を柔らかくして考えること。そして可能な限 り変化に対してオープンであることが重要です。今までやってきたことが正しかったか、今何が起こっ ているのか、今後何をすべきかなどをあなたは根本的に理解する必要があるからです。
原則 4. 福音による決心
(Gospel Resolve)
「彼がエステルのことばをモルデカイに告げると、モルデカイはエステルに返事を送って言った。『あな たは、すべてのユダヤ人から離れて王宮にいるので助かるだろう、と考えてはいけない。もし、あなた がこのようなときに沈黙を守るなら、別のところから助けと救いがユダヤ人のために起こるだろう。し かし、あなたも、あなたの父の家も滅びるだろう。あなたがこの王国に来たのは、もしかすると、この ような時のためかもしれない。』エステルはモルデカイに返事を送って言った。『行って、スサにいるユ ダヤ人をみな集め、私のために断食してください。三日三晩、食べたり飲んだりしないようにしてくだ さい。私も私の侍女たちも、同じように断食します。そのようにしたうえで、法令に背くことですが、 私は王のところへ参ります。私は、死ななければならないのでしたら死にます。』」 エステル 4:12-15
まず前提として、この原則 4 を実行するためには、これまでの 3 つの原則を踏襲しなければうまくいき ません。並外れた祈りをすること、十分な休息をとって神様との時間を過ごすこと、神様にあなたの感 情を包み隠さず伝えること、ストイックさの伴わない逆境力のための時間を持つこと、そして今のあな たのミニストリーのこと、これからするべきことをしっかり考えることです。もしこの 3 つを経ずして 原則 4 に取り組むならば、バーンアウトに陥る可能性が非常に高いことを述べておきます。
福音による決心は、「やるしかない」と決意すること、今自分の中にあるものを振り絞って「やるべきことを始める」ことです。エリザベス・エリオットは、クリスチャンの特長は「一歩ずつ進むことだ」と 私の妻と私によく話していました。たとえあなたがどこにいるか分からなくても、またはどういう状態 か理解できなくても、それでも 1 歩ずつ歩み続けることができるということです。
モルデカイに対するエステルの返事を一言で言うと、それは「決心」です。私はこれをやり遂げる。も しあなたが教会のリーダーであるならば、あなたが誰であれ、あなたがどこにいるとしても、このよう な時のためにあなたは導かれたのです。神様の御心があなたの今いるところに導いたのです。あなたが 持つべきこの決心は、エステルが持ったような決心です。ですからあなたは「私はやります」と言うべ きです。その決心はエステルが言ったように、「私は死ななければならないのでしたら死にます」と言う 決心そのものです。
けれども、あなたはエステルのように死ぬことはないことを知ってるはずです。そしてその理由も実は わかっているはずです。なぜならあなたは一人の方に目を注いでいるからです。その方は真のエステル であり、それがどなたかあなたはご存知です。
イエスは様々な意味で本当のエステルだと言うことがわかります。例として、イエスは「私は、死なな ければならない時に(下線訳者)死にます。」と言われました。実際、イエスはご自身の民のために身代 わりとなって死なれました。それによってエステルと同様に王座の前に立ち、王である父に一つの願い を請いました。私たちの救いをです。それゆえに、私たちは福音による決心をキリストのために固める ことができるのです。
著者
ティモシー・ケラー
ニューヨーク市でリディーマー長老教会を開拓。ニューヨークタイムズのベストセラー、「The Reason for God」「Prayer」著者。世界各国で380以上の教会開拓に協力したNPO法人リディーマー・シティー・トゥー・シティー理事長。 妻キャシーとニューヨーク市在住。